International legal news mainly developments in litigation and arbitration, and sometimes my own updates
11 December 2021
米連邦裁判官、Facebookに対する証拠開示命令を取り消す
06 November 2021
オランダ最高裁、Yukos仲裁判断取消申立控訴審判決を破棄差戻し
オランダ最高裁は5日、Yukos事件仲裁判断の取消申立控訴審判決を破棄し、控訴審に差し戻しました。判決文は、現時点ではオランダ語のみが掲載されていますが、英訳がいずれアップロードされるようです。
2014年に被申立国ロシアに対して超巨額の損害賠償を命じた仲裁判断(Veteran, Yukos Universal, Hulley v. Russia)をめぐっては、その後オランダ裁判所において取消が申し立てられたところ、第一審は取消申立を認容したのに対し、控訴審は原判決を取り消す(よって仲裁判断が「復活」)という経緯を経てきたところで、最高裁は控訴審判決を破棄しており、二転三転してきております。最高裁は事件を控訴審に差し戻したため、事件はいましばらく続きそうな見通しとなっています。
29 October 2021
EU司法裁判所、ポーランドに対し1日当たり100万ユーロの制裁金支払いを命じる暫定措置を発出
EU法上、EUの予算のコンディショナリティーとして法の支配(司法の独立)の遵守が要求されており(規則2020/2092の第3条)、いわゆるコロナ復興基金(Next Generation EU)と法の支配の遵守とを紐つけて補助金の分配の停止を求める主張もあります。こちらの動きも別途注視する必要があります。
なお、たまたまですが、本命令の前日である26日付で、Achmea判決の射程をアドホック仲裁合意に拡張する(投資仲裁制度を定めるIntra-EU BITsがEU法に反するのと同様、EU加盟国と他のEU加盟国の投資家の間でのアドホックな仲裁合意もEU法に反するとする)判決(Poland v. PL Holdings)が下され、こちらも話題となっていますが、その中で、本件投資家(ルクセンブルク法人)は条約上の投資仲裁制度ではなくポーランド司法制度によって保護されるとした次のくだりが、以上の文脈と併せると興味深いところがあります(強調筆者)。
68 Secondly, the individual rights which PL Holdings derives from EU law must be protected within the framework of the judicial system of the Member States, namely, in the present case, the Polish judicial system. Consequently, even if it were established that there is a lacuna in the protection of those rights, as is alleged by PL Holdings, that lacuna would have to be filled within that system, if necessary with the cooperation of the Court in the context of its powers; however, such a lacuna cannot justify allowing a failure to comply with the provisions and fundamental principles referred to in paragraph 65 above.
10月30日追記:注視する間もなく新展開があり、上記コンディショナリティー規則の不遵守を理由として、欧州議会が欧州委員会を相手取り、EU司法裁判所に提訴したとの発表がありました。
13 October 2021
子どもの権利条約委員会、気候変動にかかる個人通報を却下
却下の理由は国内救済の未完了であり、その推論(救済を得られる見込みについて単に疑義を持つだけでは救済完了を免除しない:10.18項)も穏当なものですが、通報者の1人にGreta Thunberg氏が含まれていたため、多くのメディアが(ややセンセーショナルに)報じております。もっとも、通報者の氏名は国籍国のアルファベット名順に記載され、筆頭に記載されるのは別の個人(アルゼンチンの環境活動家のようです)の氏名となり、"Chiara Sacchi et al. v. Argentina [France/Germany/...]"として引用するのが正式になるかと思います。もっとも、敢えて"Greta Thunberg et al. v. Argentina"等として引用したからといって「誤り」ということにはならないかもしれませんが。
24 September 2021
米国連邦地裁、ロヒンギャ・ジェノサイドに関する証拠開示をFacebookに命令
ガンビアがFacebookを相手取り28 USC 1782に基づく証拠開示を求めていた事件で、米国コロンビア特別区地裁は22日、ガンビアの申し立てを大筋認め、Facebookに対して証拠の開示を命令しました。ガンビア政府も歓迎の意を表明しています。
本件証拠開示請求は、国際司法裁判所におけるGambia v. Myanmarの事件に関連して、原告ガンビアが、ミャンマー政府によるロヒンギャ・ジェノサイドの責任を追及するにあたって、ジェノサイドの意図を証明するための証拠資料を収集する狙いから提起されたものです。ミャンマーにおけるFacebookの利用率が非常に高く、反ロヒンギャ言説を広く伝播する役割を果たしてきたことが背景にあります。
2020年6月の開示請求から1年以上が経過しており、この間、懸案の国際司法裁判所での手続では原告ガンビアの申述書の提出が既に完了しているため、本件開示命令を通じて得られるであろう証拠資料は抗弁書に付して提出する必要があります。この点、現時点では先決的抗弁の審理期日も未発表ですので、原告側弁護団としては関連資料を消化する時間は十分あるように思います。さらには、本件提訴後に発生したミャンマーの軍事クーデターの影響もあるかもしれません。
15 September 2021
レバノン特別法廷、活動再開
財政難により休廷の危機に陥っていたレバノン特別法廷ですが、その後活動再開の見通しのようで、10月4日より口頭弁論が予定されていると発表されました。
02 July 2021
日本バドミントン協会、スポーツ仲裁自動応諾条項を破棄
協会としての意思決定は少し前のようですが、6月30日付で下された仲裁パネル決定の中で言及されたこともあり、報道されているようです。
本件は、申立人(岐阜県に本拠を置くバドミントンチーム)が、被申立人(日本バドミントン協会)が主催する実業団バドミントンリーグへの登録を申請したところ、協会がこれを認めないと決定したため、当該決定の取消を求めてスポーツ仲裁に申し立てた事案です。2021年4月28日付の仲裁判断は申立人の請求を認容し、協会の決定を取り消しを判断していました(JSAA-AP-2020-005号事案)。が、協会はその後、スポーツ仲裁自動応諾条項からの離脱を議決のうえ(5月29日)、日本スポーツ仲裁機構に対してその旨通知し(6月10日)、機構がその受領を確認した(同11日)後に、「6月15日ころ」に、申立人をリーグに登録させない決定を行ったという事実経過です。そこで申立人は再度仲裁を申し立てましたが(6月17日)、上記自動応諾条項からの離脱の効果により、仲裁合意が存在しないと判断され、手続の終了が決定されました(JSAA-AP-2021-001号事案)。
国際法に慣れ親しんだ者としては、不利な仲裁判断が下された側がのちに仲裁管轄合意を撤回あるいは合意の範囲を縮減するということは日常茶飯事であり、珍しくない現象ですが、こと日本スポーツ仲裁業界では異例の事態のようであり、仲裁パネル決定も、自動応諾条項の在り方について長文にわたる「付言」を付しています。
なお、公平性の観点から付記しますと、日本バドミントン協会は、上記仲裁自動応諾条項からの離脱と同時に「不服審査会」を設置し、チーム登録の承認に関する不服申立の仕組みを協会内部に設けたようです。
さらに、先行する仲裁判断が扱った事案は2020年のリーグ登録申請にかかる紛争であり、本件は2021年のリーグ登録申請にかかる紛争である、と本件仲裁パネルが認定している点も踏まえる必要はあります。
14 June 2021
レバノン特別法廷、財政難により休廷の危機
09 June 2021
欧州委員会、ドイツに対して条約違反手続を開始
01 June 2021
人種差別撤廃委、パレスチナ対イスラエルの国家通報の受理可能性を肯定
24 May 2021
ベラルーシ、民間旅客機を航路転換させ体制に批判的なジャーナリストを拘束
すでに広く報じられている通り、ギリシャ発リトアニア行きの民間航空機FR4978便がベラルーシ(ミンスク)に航路変更され、着陸とともに乗客であったジャーナリストが拘束されたとのことです。事の性質上、詳細は報道に拠るほかありませんが、安全保障上の懸念(FR4978便に爆発物が搭載されている可能性)をベラルーシ管制から伝えられたFR4978便は、スクランブル発信したベラルーシ戦闘機によりミンスクまでエスコートされたとのことです。ただ、捜索の結果爆発物は発見されず、その際にベラルーシ体制に批判的なジャーナリストが拘束されたことから、同氏を拘束するために虚偽の懸念をもって着陸させた、との批判がなされています。
本件については、ベラルーシの行為を「国家テロリズム」との表現で批判する声が散見されます(例えば)。ICAOはシカゴ条約違反の可能性を示唆していますが、1971年モントリオール条約(民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約)のほうがわかりやすいかと思います。同条約第1条1項(e)は、「虚偽と知っている情報を通報し、それにより飛行中の航空機の安全を損なう行為」を犯罪としているため、国家が自らの機関(ベラルーシ管制)を通じて条約上の犯罪を犯した、と論じる余地があります。この論理構成が仮に難しい場合でも、第10条1項において、「締約国は、国際法及び国内法に従い、第1条に定める犯罪行為を防止するためあらゆる実行可能な措置をとる(shall)」とあるので、防止義務違反については論じる余地が出てくるように思います。
ちなみに、モントリオール条約には紛争処理条項があり(第14条1項)、仲裁ひいては国際司法裁判所への紛争付託が認められていますが、残念ながらベラルーシは同条に対して留保をしています。
追記:ほぼ同じ観点から分析したTweetがすでにありましたので、こちらもあわせてどうぞ。
10 May 2021
23 April 2021
COVID-19と国際法(9) 中国に対する慰謝料請求につき、民事裁判権免除を理由に却下した事例
21 April 2021
宣伝:国際司法裁判所における反訴の受理可能性
についての拙稿をベルギー国際法雑誌(Revue belge de droit international) 2020-1号に掲載しましたので、もしよろしければ御笑覧くださいませ。
韓国ソウル地裁、従軍慰安婦訴訟において主権免除を肯定し賠償請求を却下
すでに多くの報道がなされている通り(例えば)、4月21日付判決にてソウル地裁は元従軍慰安婦及びその遺族が日本政府を相手取り提起した損害賠償請求を却下しました。判決原文(のブログ著者が読める言語による翻訳)は未入手ですが、日本の主権免除が肯定され、その判断推論において「不法行為例外」および「強行規範違反例外」に関する国際慣習法の成立を否定したようです(抄訳)。国際司法裁判所のドイツ対イタリア判決に即した判断とみることができそうです(特に76項、93-94項)。
となると、国際強行規範違反については主権免除が否定されるという、上記国際司法裁判所の判決とは異なる推論を辿って真逆の結論に到達した本年1月8日付判決(要旨)との整合性が問題となりそうです。
ドイツ憲法裁判所、欧州復興基金を批准する国内法令への大統領署名の差止申立を却下
4月21日付のプレスリリースにより、15日付の命令で却下されたと述べられています。COVID-19対策として欧州委員会が7500億ユーロ相当の資金を市場から借り入れを行うことについての詳細を定めた欧州理事会決定(2020/2053)を批准する法令のドイツ基本法適合性が争われている事件における判断になります。注意すべきは、本命令はあくまで批准法令に対する大統領署名の差止め(einstweiligen Anordnung)請求をドイツ憲法裁判所が却下したにとどまり、いわゆる欧州復興基金のドイツ基本法適合性にかかる本請求についての判断は今後ということになります。