14 June 2021

レバノン特別法廷、財政難により休廷の危機

 


6月2日付のプレスリリースにて発表されています。レバノン特別法廷の運営予算は、レバノン政府による拠出(49%)とその他諸国の自発的な援助(51%)からなっているところ、これらの不足により、財政支援がなければ7月31日以降の活動が見込めないと発表されました。書記局長はすでに、法廷スタッフの人員整理の可能性にも言及しています。財政難の背景としては、プレスリリースは主としてCOVID-19パンデミックを挙げていますが、より根深いところでは、同法廷の成果に対する疑義が燻ぶっているようです。

さて、仮に不幸にも財政支援が無かった場合、法制度的観点から浮上するのは係属中の案件の扱いです。財政難が理由である以上、残余メカニズムに相当する制度の構築・運営は想定しがたいかもしれません。書記局長の通知からは、"a dormancy model"への移行という表現で検討されていることが伺えますが、それ以上の詳細は明らかではありません。

09 June 2021

欧州委員会、ドイツに対して条約違反手続を開始

 


9日付で正式に開始すると、欧州議会の議員が発表しています。条約違反手続はもちろん、EU運営条約258条1項に基づくものであり、加盟国による同条約(およびEU条約)上の義務違反があると考える場合に、欧州委員会が開始することができるものです。

問題の発端は2020年5月のドイツ連邦憲法裁判所判決であり、欧州中央銀行による債券購入計画(public sector asset purchase programme: PSPP)を権限踰越(ultra vires)と判断した事件(PSPP判決)です。判決に先立ち、ドイツ連邦憲法裁判所は、欧州司法裁判所に対して先決裁定を求めており、欧州司法裁判所は、PSPPはEUの権限を逸脱するものではない(通貨政策の範疇に属する)と結論していました(C-493/17 Weiss判決)。にもかかわらず、ドイツ連邦憲法裁判所はこれと逆の結論に到達するわけですが、その際、PSPPの権限踰越のみならず、先決裁定について判決した欧州司法裁判所についても任務逸脱があると判断し、したがってドイツとしては救済措置(EU条約19条1項第2文)を講じる必要はないと判断した点が大きく話題になりました(例えばこの特集)。

ドイツ連邦憲法裁判所のこうした姿勢はある種一貫したものでありますが(例えば、リスボン条約事件判決の240-241項)、EU法の解釈をめぐる欧州司法裁判所と加盟国裁判所の相克を示す新展開となりそうです。ちなみに、筆者が個人的に関心を寄せる別の事件については同様の展開は(まだ)見られないようです。

01 June 2021

人種差別撤廃委、パレスチナ対イスラエルの国家通報の受理可能性を肯定

 


4月30日付の決定が公開されました。通報の受理可能性を肯定する結論に至っております(65項)。その主たる論拠である、通報が個別の人権侵害事例ではなく「a “generalized policy and practice”」に関して申し立てている場合には国内救済を完了する必要はないとの判断は(63項)、すでにカタール対アラブ首長国連邦の通報事例でなされた受理可能性判断を踏襲するものであり(40項)、本判断は大方の予想通りだったかと思います。

本件で目新しいのは、人種差別撤廃委員会は、そうした「a "generalized policy and practice"」の存在は単に通報国が主張すれば足りるわけではなく、証拠による疎明(prima facie evidence)を要すると述べた点にあります(63項)。この点は一見すると当然に思われるかもしれませんが、先のカタール対アラブ首長国連邦の事件では本案に併合していました(41項)。また、人種差別撤廃条約に関する国家間紛争(ウクライナ対ロシア)を扱う国際司法裁判所は、むしろ一切証拠を参照せずに原告の申立の定式のみを根拠に国内救済完了原則の不適用を結論している(ように読める)ため(130項)、異なるアプローチがありうることが示唆されています。

なお、本受理可能性判断に先立つ管轄権判断の審理手続をある意味紛糾させた(?)国連法務局のメモランダムも公開されているようですので、こちらもあわせてどうぞ。