29 May 2020

COVID-19と国際法(3) 米国での集団訴訟



前回は、中国のCOVID-19関連対応を問うための国家間紛争処理メカニズム(の一部)を紹介しました。今回は、国内平面ではどのような問い方が可能であるのかについて少し見ていきたいと思います。この点、米国の裁判所では中国の対応の責任を問う集団訴訟がすでにいくつも提起されているため、まずは現状を把握する必要があります。

感染拡大状況がなお収束しない中(2020年5月末現在)、米国ではCOVID-19関連措置をめぐり、すでに無数のクラスアクションが様々な業種で提起されています。ローンや債務減免、教育機会、労働機会の喪失といった点を争う訴訟が目立ちますが、国際法上の含意を持ちそうな例としては、中国政府を相手取った訴訟(現時点で少なくとも5件確認)、そしてWHOを相手取った訴訟を挙げることができます(こちらは後日扱います)。

■中国を被告とする訴訟

まず、中国政府を相手取ったクラスアクションがこれまで、フロリダ州テキサス州ネヴァダ州カリフォルニア州において提起されています。これらのうち、テキサス州の事例を除く3件の訴状は(完全に同一ではないものの)かなり内容的に重複しており、とりわけ中国の行為を「極度有害活動 (ultrahazardous activity)」というコモンロー上の不法行為として構成している点が特徴的です。これに対し、テキサス州の事例は中国の行為を(米国法上の)「テロリズム」を構成するものと主張している点が注目されます(その含意は後述します)。

以上に加えて、ミズーリ州(のAttorney Generalが州を代表して)が中国政府を相手取り、ミズーリの連邦地裁に訴訟を提起しました。州(米国法上は"a sovereign State")が原告となる訴訟は私人が提起する訴訟に比べて様々な意味で含意があるためか、日本でも話題になった(ように)と思います。とはいえ、提訴主体が誰であれ、被告が外国国家であることから起因する最初のハードルである主権免除の問題を避けて通ることはできません。ので、次のこのミズーリ訴状を中心に、外国主権免除法の適用を検討してみます。

■外国主権免除

外国主権免除法(を規定する米国法律集第28編)第1604条に基づき、外国国家は「1605条から1607条に規定する場合を除いて」米国の裁判権から免除されます。そのため、米国で外国国家を相手取った訴訟を遂行するためには、同法の適用例外を見つける必要があるのですが、よく援用されるのが商業活動例外(第1605(a)(2)条)と不法行為例外(第1605(a)(5)条)であり、ミズーリ訴状もこれらを援用しています。

商業活動例外はさらにいくつかの下位分類がありますが、ミズーリ訴状が依拠するのはいわゆる「直接効果」基準に基づくものであり、次の文言に依拠しています。

"A foreign state shall not be immune from the jurisdiction of courts of the United States or of the States in any case(2) in which the action is based upon [...] an act outside the territory of the United States in connection with a commercial activity of the foreign state elsewhere and that act causes a direct effect in the United States".

ただこれによると、では中国のCOVID-19対策行為がいかなる「商業活動」と関連するのかが問題となりますが、訴状は、武漢および中国全土での医療制度運営や武漢ウイルス研究所の「商業的なウイルス研究 (commercial research on viruses)」などがこれに該当すると簡潔に述べるだけであり(40項)、この立論構成がどこまで説得的であるかが争点の1つとなるかと思います。

不法行為例外も複雑ですが、さしあたり次の関連個所が重要です。

"A foreign state shall not be immune from the jurisdiction of courts of the United States or of the States in any case—(5) [...] in which money damages are sought against a foreign state for personal injury or death, or damage to or loss of property, occurring in the United States and caused by the tortious act or omission of that foreign state [...]".

したがって損害が米国内で発生しているから同例外に該当する、というのがミズーリ訴状の立論ですが(42項)、損害だけでなく損害を与えた行為(不作為含む)も米国内で発生していなければ同条の適用はないというのが判例(735 F.2d 1517 (D.C. Cir. 1984))なので、この点をどう主張するかが課題となりそうです。

■テロリズム例外

以上のほかに、外国主権免除法上、テロリズム例外と呼びうる条項があります(複数の改正を経て、現行規定は2016年改正)。ミズーリ訴状は援用していませんが、テキサス訴訟が主としてこれに依拠していると見受けられ(4-5項)、特定はしてはいませんが、第1605B(b)(1)条の次の文言に依拠しているのではないかと推察されます。

"A foreign state shall not be immune from the jurisdiction of the courts of the United States in any case in which money damages are sought against a foreign state for physical injury to person or property or death occurring in the United States and caused by—(1) an act of international terrorism in the United States".

では、COVID-19関連における中国の活動の何が「国際テロリズム行為」なのでしょうか。この点も訴状は明確には特定していないように読めますが、どうやら、武漢の研究所が新型コロナウイルスを大気中に放出した(というバイオテロだ)、という事実認識を前提としているようです(62項)。もちろん、そうした事実を裏付ける証拠資料を原告側弁護人が持ち合わせているのか、筆者には定かではありません。

■中国共産党は「外国」ではないのか?

ミズーリ訴訟に話を戻しますと、ミズーリ州はさらに、中国政府とは別に「中国共産党」を被告に加えた上で、「中国共産党」に関しては主権免除法がいうところの「外国」ではなく、したがって主権免除を享受しない、との主張を展開します(44項)。同法上、"[a] 'foreign state' [...] includes a political subdivision of a foreign state or an agency or instrumentality of a foreign state"と規定されているにもかかわらず、です。ここで注目されるのが、ミズーリ訴状が、中国共産党は主権免除法において免除を享受しないと判断された先例が存在すると主張している点です。次の段落です。

"19. On information and belief, the Communist Party is not an organ or political subdivision of the PRC, nor is it owned by the PRC or a political subdivision of the PRC, and thus it is not protected by sovereign immunity. See, e.g., Yaodi Hu v. Communist Party of China, 2012 WL 7160373, at *3 (W.D. Mich. Nov. 20, 2012) (holding that the Communist Party of China is not entitled to immunity under the Foreign Sovereign Immunities Act)".

そこで、引用されているYaodi Hu v. Communist Party of Chinaなる事件がかなり気になってくるわけですが、(筆者は在宅勤務中でWestlawにアクセスできないので一般公開されている情報を踏まえますと、この事件は、中国・中国共産党・および3名の共産党幹部を被告とする外国人不法行為法に基づく請求であり、中国に対する請求は主権免除に基づいて、その他の請求については原告適格の不存在を理由としてすべて却下(すべきというMagistrate Judgeの報告書をDistrict Judgeが承認採用)した事件のようです。確かに、中国共産党に対する請求却下の根拠は主権免除ではなく原告適格ですが、だからといって中国共産党は主権免除を享受しないと述べているわけではないので、そうした判断をこの命令に読み込むことがどこまでできるのかはさらに詰める必要がありそうです。

28 May 2020

COVID-19と国際法(2) WHOにおける紛争処理メカニズム



COVID-19感染拡大に伴い、ウイルス発生源と目される中国の初期対応についての国際責任を問う議論が数多く登場してきています。事態が収束していない段階でのそうした議論の方向性が生産的であるか否かへの疑問前回少し触れました。中国の国際責任を問う報告書を英国のシンクタンクが公表したのに対し、中国系メディアが相次いで批判記事を掲載してきており(例えばこれこれ)、本主題はすでに政治的なディスコースの中にあるといえるかもしれません。ただ、下記に見ますように、裁判や仲裁といった国家間紛争処理メカニズムを用意しているのは他ならぬWHO憲章や国際保健規則(2005)です。そうしたオプションを通じていかなる範囲で責任追及が可能であるのかを整理しておくことは、世界保健体制に通底する原理を理解しようとすることにもなるかと思いますので、ここではそうした可能性について概観してみたいと思います。

世界保健法制の概要を少し


筆者は保健法制の専門家でも何でもないのですが、COVID-19感染拡大に伴う国家責任追及可能性の探求という観点から関連法文書を見ますと、さしあたり次のような3層構造で捉えればよいのではないかと考えております(間違っていたら教えてください)。

1つは、WHO憲章であり、中国を含めた190を超える国が加盟する、WHO(世界保健機関)という国際組織を設立する国際条約です。条約である以上、加盟国に対して義務を課しうる法文書ではありますが、国際組織設立条約という性質から、WHO内部機関の組織や運営に関する規定が多くを占めており、(国家責任追及の手がかりとなりそうな)加盟国の義務を規定する条文は多くは無いように見受けられます(後述します)。

そこで重要となるのが国際保健規則(2005)であり、感染症対策に関して加盟国に様々な義務を課しています("Each State Party shall" "States Parties shall"という文言が並びます)。国際保健規則それ自体は条約ではなく、WHO憲章第21条・22条に基づき総会が採択した法的拘束力ある文書です。法的拘束力がある以上、規定された義務内容の違反は国際責任を惹起します加盟国による国際機関への法定立権限の移譲例とみることができます。

この国際保健規則(2005)の第12条に基づき、(テレビで顔を見ない日はない)WHO事務局長は特定の感染症蔓延状況について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (a public health emergency of international concern)」を構成するか否かを認定する権限を有します。そして、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の発生を認定すれば、WHO事務局長は所定の手続に従って「暫定的勧告 (temporary recommendations)」を発することができます(同第15条)。COVID-19の場合には、本年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であると宣言され、中国(To the People's Republic of China)および全国家(To all countries)に対して各種の勧告を行いました。国際保健規則からWHO事務局長へのルール定立権限の再委譲とみることができるかもしれませんが、この「暫定的勧告」は法的拘束力を持たず(国際保健規則第1条の定義規定参照)、したがって名宛人たる国家の法的責任を追及する根拠は提供しないものと思います。

以上のように、世界保健法制は、権限委譲関係という観点からWHO憲章・国際保健規則・暫定的勧告の3層構造で(ひとまず)捉えることができるかと思いますが、国家責任追及可能性という観点からは前2者が重要となります。そこで次に、これらにおける紛争処理条項の内容を見ていきたいと思います。

WHO憲章・国際保健規則(2005)の紛争処理条項


まず、国際保健規則(2005)はその第56条において、次のような規定により仲裁による紛争処理を認めています。

"1. In the event of a dispute between two or more States Parties concerning the interpretation or application of these Regulations, the States Parties concerned shall seek in the first instance to settle the dispute through negotiation or any other peaceful means of their own choice, including good offices, mediation or conciliation. Failure to reach agreement shall not absolve the parties to the dispute from the responsibility of continuing to seek to resolve it.
[...]
3. A State Party may at any time declare in writing to the Director-General that it accepts arbitration as compulsory with regard to all disputes concerning the interpretation or application of these Regulations to which it is a party or with regard to a specific dispute in relation to any other State Party accepting the same obligation".

この規定を手がかりとすれば、例えば中国政府がCOVID-19に関する公衆衛生情報を評価してから「24時間以内に」WHOに情報提供する義務、あるいは「正確かつ十分な」情報を提供する義務(国際保健規則第6条)に違反したという主張、仲裁を通じて追及できるようにも考えられます。もっとも最大の問題は、中国政府が本条項に基づいて仲裁管轄に同意する宣言を行った形跡はなく、また今後そうした宣言を行うことは考えにくいことであり、このオプションは事実上閉じられているとみてよいかと思います。

そこで、WHO憲章の紛争処理条項が注目されますが、憲章は第75条において次のような規定により国際司法裁判所への紛争付託を認めています。

"Any question or dispute concerning the interpretation or application of this Constitution which is not settled by negotiation or by the Health Assembly shall be referred to the International Court of Justice in conformity with the Statute of the Court, unless the parties concerned agree on another mode of settlement".

一見する限り、この規定振りは多数国間条約の裁判条項としては割と典型に属するものであり、当事国間交渉「あるいは」総会によって紛争が解決されなかったことを前提条件として国際司法裁判所への付託を認めるものと読めます。前提条件の細かな解釈は割愛しますが、いずれにせよ、WHO憲章の解釈適用に関する加盟国間紛争を裁判を通じて解決するという途が明示的に開かれている点が注目されます。

事項的管轄権の判断枠組み


ただし、この第75条を援用しつつ抽象的に「WHO憲章違反だ」と主張すれば直ちに国際司法裁判所に審理してもらえるわけではありません。WHO憲章のように特定の分野を規律する多数国間条約の裁判条項に基づいて紛争が付託される場合、裁判所は次のような定式で、付託されたが紛争が自らの管轄権の事項的範囲内にあるか否かを判断します。

"in order to determine the Court’s jurisdiction ratione materiae under a compromissory clause concerning disputes relating to the interpretation or application of a treaty, it is necessary to ascertain whether the acts of which the applicant complains 'fall within the provisions' of the treaty containing the clause" (Ukraine v. Russia, Objections (2019), para. 57).

したがって、WHO憲章の特定の条文に「収まる (fall within)」被告国の行為を特定する必要があります。予告しました通り、ここで問題となりそうなのが、WHO憲章はWHOの組織や運営に関する条文が多くを占めており、責任追及の手がかりとなりそうな国家の義務を規定する条文は必ずしも多くはないことです。以下、めぼしい条文についていくつか検討してみます(この点は我が畏友のポストがより詳細です)。

まず、"Each Member of the Organization on its part undertakes to respect the exclusively international character of the Director-General and the staff and not to seek to influence them"と規定する憲章第37条を根拠に、中国は、COVID-19に関する情報を隠蔽あるいは不正確な情報を提供することで、事務局長による「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の認定を遅らせ、WHO事務局長及び職員に対して「影響力を及ぼそうとしない」義務に違反したという立論構成が提示されています。が、この場合、中国による情報隠蔽工作があったか否かという微妙かつ難しい事実証明が管轄権判断において求められることとなります。

次に、"Each Member shall communicate promptly to the Organization important laws, regulations, official reports and statistics pertaining to health which have been published in the State concerned"と規定する憲章第63条を根拠に、中国はCOVID-19に関する公式報告や統計を「速やかに (promptly)」提供する義務を怠った、という論理構成も一見したところありえそうですが、同条に基づいて提供すべき情報は「その国において公表された (published)」ものに限定されていますので、仮に何らかの情報隠蔽工作があったとしても、それだけではそうした行為が憲章第63条に「収まる」と結論付けることは難しそうです。

最後に、"Each Member shall provide statistical and epidemiological reports in a manner to be determined by the Health Assembly"と規定する憲章第64条が挙げられますが、これは少し複雑な解釈を要します。すなわち、加盟国は「保険総会が決定する態様(manner)において」統計的疫学的報告を提供すべきところ、ここでいう「態様」には総会が採択した国際保健規則(2005)が含まれ、したがって「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を構成しうる事象に関する情報の評価から24時間以内にWHOに通知しなければならないという国際保健規則第6条1項の不遵守は、同時に憲章第64条違反を構成しうる、といった論理構成です。もっともこの場合、具体的にどの行為が24時間のカウントダウンを開始したのかを特定する必要があります。6条1項の関連個所は次のような規定です。

"Each State Party shall notify WHO, by the most efficient means of communication available, by way of the National IHR Focal Point, and within 24 hours of assessment of public health information, of all events which may constitute a public health emergency of international concern within its territory in accordance with the decision instrument, as well as any health measure implemented in response to those events."
 

管轄権判断でどこまで事実問題に踏み込むか


以上の分析は国際司法裁判所の管轄権設定に関するものであり、中国の国際責任という本案には一切触れるものではありません。情報隠蔽工作やWHOへの情報提供の遅れ(の疑い)に言及しているのは、事項的管轄権の判断枠組みにおいてそれが要求されるからであり、本案に予断を与えるものではありません(この区別がなかなか理解されにくいことは、我が畏友のブログポストのコメント欄をみると分かります)。では、「そもそも情報隠蔽工作の事実などない」「中国はWHOに速やかに情報提供を行った」といったかたちでそもそもの事実認識が食い違う場合、裁判所としては管轄権判断の段階でどこまで事実問題に踏み込まねばならないのでしょうか。この論点は過去に何度か議論されてきており、最近の事件でも、管轄権判断の段階では事実認定は不要とする(=原告が主張する事実を真実と扱う)立場と、管轄権を基礎づける事実が存在することの見込み (plausibility)は少なくとも必要だとする立場が対立しました。が、裁判所の回答はあまり歯切れのよいものではなく、管轄権抗弁に関連する事実問題を検討すると述べるのみでした。

"At the present stage of the proceedings, an examination by the Court of the alleged wrongful acts or of the plausibility of the claims is not generally warranted. The Court’s task, as reflected in Article 79 of the Rules of Court of 14 April 1978 as amended on 1 February 2001, is to consider the questions of law and fact that are relevant to the objection to its jurisdiction" (Ukraine v. Russia, Objections (2019), para. 58). 

26 May 2020

COVID-19と国際法(1) 感染症関連の訴訟状況



COVID-19感染拡大状況の中、米国ミズーリ州が中国を相手取り不法行為請求訴訟を提起したことは、日本でも少し話題となったかと思います。COVID-19関連訴訟としては他にも、スイス連邦政府が実施したウイルス対策措置の違憲性を争う訴訟は連邦裁判所によりすでに退けられ、ナイジェリア政府がウイルス対策の名のもとに人権侵害行為を行っているとの申立てがECOWAS司法裁判所に係属したと報じられています。この後者の事例は、私の知りうる限りでは、COVID-19関連措置が国際裁判の俎上に乗る最初の事件かもしれないです。

国際法と新型コロナウイルスとの関わりを論じるブログポストはすでに無数に公表されており(例えば)、とりわけ中国の国際責任の追及可能性を論じるものが数多く登場しています。事態が収束していない現時点で誰かの責任を追及すること自体どこまで生産的であるか疑問は残るものの、とはいえ(国際)法的にどのような手段・対処策がありうるのかを整理しておくことは、取りうる選択肢の中で実際にどの手段に依拠するかという政策判断に先行する作業ですので、いくつかポストを五月雨式に連投してみたいと思います。


23 May 2020

アルゼンチン、6年ぶり9度目のデフォルト(債務不履行)




アルゼンチン政府は22日を期限として債務再編交渉中でしたが、同日債権者団との合意に至らず、約5億ドルのデフォルト(債務不履行)に陥りました。これでアルゼンチンのデフォルトは6年ぶり9度目となります。

債務不履行額に比して報道の論調が比較的落ち着いているのは、債権者団が交渉継続に応じる姿勢を示しており、即座には訴訟乱発には至らないと見込まれているからのようです。再設定された次の交渉期限は6月2日と報じられております。
(6月2日追記:6月12日まで交渉期限が再延長されたようです)
(6月14日さらに追記:6月19日まで再延長されました)
(6月20日さらに追記:7月24日まで再延長されるようです)

なお、こうした国家債務不履行は時折「テクニカル・デフォルト」と呼ばれることがあります(今回もそうです)。ただ、いかなる意味において「テクニカル」なのか必ずしも統一的な意味は与えられていないように思います。定義的には、「a deficiency in a loan agreement that arises from a failure to uphold certain aspects of the loan terms other than the regularly scheduled payments」とされています(ただ、これだと今回のアルゼンチン・デフォルトは「テクニカル」ではないような気もします)。支払い能力があるにもかかわらず不履行を選んだという趣旨でこの用語を用いるもありますが、この場合にはstrategic defaultという用語が別に用意されています。2014年のデフォルトも「テクニカル・デフォルト」と呼ばれていましたが、これは、私個人としては、アルゼンチン政府としては(協調的な)債権者への弁済の準備があったにも関わらず他の(敵対的な)債権者による「抜け駆け訴訟」の結果として支払いが阻止されてしまった(See NML Capital v. Argentina, 727 F.3d 230 (2nd Cir. 2013))という極めて特殊な状況を「テクニカル」と呼んでいるものと理解していましたが、そうではない用法もあるようです。

22 May 2020

新ブログを作成しました

旧ブログはしばらく残しておきますが、主要な記事をこちらに移行した後に閉鎖したいと思います。