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22 January 2024

ノルドストリーム2が申し立てていた投資仲裁手続が再開



停止していたノルドストリーム2の投資仲裁手続ですが、再開したようです。再開を決定する手続命令12の発出は2023年10月16日付ですが、PCAウェブサイトに掲載されたのは比較的最近と思われます。懸案であった仲裁費用(被申立人側の弁護士費用)のデポジットを申立人側が完了したことによります(パラ25)。

21 January 2024

エネルギー憲章条約に基づくアゼルバイジャン・アルメニア間国家間仲裁、手続が少し進む

 

昨年2月にエネルギー憲章条約に基づく仲裁付託が公表されていた本件ですが、その後しばらく進展の報がなかったところ、1月12日に最初の手続会合を常設仲裁裁判所(PCA)で開催した旨をアゼルバイジャン側が公表しました。ただ、PCAを事務局とする旨明示されているわけではなく、PCAウェブサイトの係属事件リストにも本仲裁手続は今のところ掲載されていません。

アゼルバイジャンは、環境条約に基づいてアルメニアを相手取った仲裁申立てを行っていますが、こちらとは別件になります。

30 October 2023

欧州連合を相手取った投資仲裁の申立(おそらく2件目)

 

10月24付でICSID事務局に登録されました。エネルギー憲章条約に基づく仲裁申立です。欧州連合はエネルギー憲章条約の当事者ではありますが、ICSID条約の当事者ではないため、ICSIDの追加的制度に基づく手続が選択されています(ECT第26条4項(a)(ii))。

欧州連合を相手取った投資仲裁申立としてははおそらく2例目となります。1件目はロシアのウクライナ侵攻後有名になったノルドストリーム2による申立で、こちらはUNCITRAL仲裁規則に基づき常設仲裁裁判所で審理が進められていましたところ、今般の情勢を踏まえて手続が停止していました。その後、欧州連合が仲裁手続の打ち切りを申し立てていましたところ、仲裁廷は最近これを却下しました。制裁によって仲裁手続き自体が妨げられているわけではなく、またノルドストリーム2の操業に対する地政学的影響は実体判断に属する事項との判断によります

04 April 2023

米連邦地裁、エネルギー憲章条約に基づく対スペイン仲裁判断の承認を拒絶

 

Blasket Renewable Investments v. Spainという事件の3月29日付命令になります(事件番号21-cv-03249-RJLでPACERにて検索ください)。原告は、The PV Investors v. Spain (PCA Case No. 2012-14)の申立人企業(オランダ法人)の一部から仲裁判断を購入した法人(デラウェア州法人)です(3月6日付Memorandum参照)。

EU域内の投資条約の効力およびそれら条約(ECTのEU加盟国間関係も含む)に基づき設立される仲裁廷の地位については、EU法の優位性を根拠に投資仲裁廷の管轄を否定する立場(Achema判決以降の一連の欧州司法裁判所判決)と、ECTの自律性を根拠に仲裁管轄を肯定する立場(殆どの投資仲裁判断)とが対立してきましたところ、仲裁判断の承認執行申立を受けた米国の連邦裁判所が前者に親和的な立場を示したのは本件が(おそらく)最初と思われます。理由付けの要点は下記部分(p. 14)になります。

The most straightforward reading of [Art 26(6) ECT] is that any award issued by an arbitral tribunal established under the authority of Article 26 must be consistent with both the ECT itself and any other "rules and principles of international law" that apply to a dispute between the parties. As such, when resolving a dispute between an EU Member State and another EU national, the tribunal must apply "rules and principles" derived from the EU treaties--sources of international law--as those rules are "applicable" to the parties before it. Id. Because the agreement to arbitrate between Spain and the Companies was invalid under EU law, see Komstroy para. 66, there was no valid agreement to arbitrate as defined by the ECT itself. 6 As such, the tribunal lacked authority to decide the dispute, and any award was, by definition, ultra vires.

要するに、EU法の適用をECT自身が要求している、というECT解釈になります。大多数の投資仲裁判断と一線を画するばかりか、仲裁廷がEU加盟国法をlex arbitriとする限りにおいて当該加盟国法に取り込まれたEU法を適用するという論理構成を採用した最近の例(Green Power v Spain, 9REN v Spain Annulment)からみてもさらに踏み込んだ立場になります。事実、本件仲裁判断を下した仲裁廷はスイス法をlex arbitriとしたものなので(パラ516)、lex arbitriを経由する論理構成は採用できなかったことになります。

米国における対スペイン仲裁判断の承認執行事例だけで比較してみても、先月同じ連邦裁判所(コロンビア特別区)で下された2つの判断(9REN v. Spain, NextEra Energy v. Spain)とも相容れないように見受けられます。

20 January 2023

アゼルバイジャン、環境条約に基づきアルメニアを相手取り国家間仲裁を申し立て

 


18日付でアゼルバイジャン外務省が発表しました。援用されたのは、「ヨーロッパの野生生物と自然生息地の保全に関するベルヌ条約」であり、「国際的に承認されたアゼルバイジャン領域に対する30年近い不法占領」の間に生じた環境損害についてアルメニアの責任を問うとしています。ナゴルノ・カラバフ紛争に起因する両国間の国際訴訟戦線が今一歩拡大したかたちとなります。

ベルヌ条約の第18条2項が紛争処理手続を規定しており、交渉等により紛争が処理されなかったことを条件とする仲裁付託を次のような文言で認めています。欧州評議会がdepositaryであることあってか、仲裁人選任のappointing authorityとしては欧州人権裁判所の所長が指定されています。

Any dispute between Contracting Parties concerning the interpretation or application of this Convention which has not been settled on the basis of the provisions of the preceding paragraph or by negotiation between the parties concerned shall, unless the said parties agree otherwise, be submitted, at the request of one of them, to arbitration. Each party shall designate an arbitrator and the two arbitrators shall designate a third arbitrator. Subject to the provisions of paragraph 3 of this article, if one of the parties has not designated its arbitrator within the three months following the request for arbitration, he shall be designated at the request of the other party by the President of the European Court of Human Rights within a further three months' period. The same procedure shall be observed if the arbitrators cannot agree on the choice of the third arbitrator within the three months following the designation of the two first arbitrators. 

なお、アゼルバイジャンとアルメニアはいずれも本条約につき留保を付していないようです。 

05 April 2022

ノルドストリーム2が申し立てていた投資仲裁手続が停止

 


ロシアによるウクライナ侵攻前後から話題の海底ガスパイプライン・ノルドストリーム2ですが、その運営会社(Nord Stream 2 AG)が欧州連合を相手取り申し立てていた投資仲裁手続の停止が、3月16日付の手続命令にて発表されました。申立人の銀行資産等へのアクセスが凍結され、必要な決済を行うことができないというのが要請の理由です。Nord Stream 2 AGはスイス法人ですが、ロシアの国営会社ガスプロムの100%子会社であり、ウクライナ侵攻開始後の対ロシア制裁の影響と推認されます(申立人要請にも「最近の地政学的展開」への言及があります)。欧州連合側が条件付きながら手続停止に反対した点が興味深いですが、仲裁廷の長は申立人の要請を容れました。ひとまず、6月20日に手続的な会合が予定されたようです。

なお、本件はエネルギー憲章条約に基づき申立人が2019年に仲裁申立したもので、域内ガス市場に関する欧州連合による規制枠組みの変更を主題とする紛争です。本年2月22日付のドイツによる計画停止の発表に関するものではありませんので、念のため。

19 February 2022

スポーツ仲裁裁判所、フィギュアスケート・ワリエワ選手に関する仲裁判断を公開


 

北京オリンピックの女子フィギュアスケート競技に出場したロシア・オリンピック委員会のカミラ・ワリエワ(Kamila Valieva)選手のドーピング陽性判定を受け、ロシア・アンチドーピング機構(RUSADA)が同選手に対して暫定的資格停止処分を課したのに対し、ワリエワ選手の申し立てを受けたRUSADA・アンチドーピング規律委員会(Disciplinary Anti-Doping Committee:DADC)が同処分を取消したことが大きく報じられてきました。その後、国際オリンピック委員会(IOC)・世界ドーピング機構(WADA)・国際スケート連盟の3者が、DADCの決定の取消しを求める仲裁申立てを提起したところ、スポーツ仲裁裁判所(CAS)のアドホックパネルがこれを退けたため、陽性判定にもかかわらずワリエワ選手が競技に出場できたこと、そして競技の結果が(同選手にとって悲)劇的であったこともあってか、議論(批判)の矛先がCASパネルにも向けられています。

CASパネルの仲裁判断が2月14日付で下された際、これを発表するプレスリリースにおいて、ワリエワ選手が16歳未満の「要保護者(Protected Person)」であるという理由要旨が簡潔に言及されたためか、CASパネルが同選手の出場を(いわばパターナリスティックかつ政策的に)認めたかのように批判する論調も見られますが、17日付で公開された仲裁判断の理由付けにおいてCASパネルは、そうした単純な推論ではないことを強調しています(221項)。そこで本ポストでは、DADC決定の取消申立てを棄却したCASパネルの判断における「要保護者」の要素の位置づけを整理してみたいと思います。

「要保護者」カテゴリー設定の趣旨

ここで懸案の「要保護者」概念はCASパネルの創造ではなく、適用法規である世界アンチドーピング規程に明文の根拠(定義規定)を持つものであり、違反時点で16歳未満の選手はこのカテゴリーに属するものとして扱われます(174頁)。こうした「要保護者」を通常のアスリートと区別して扱うのは、同規程コメンタリによれば、一定の年齢に到達していないアスリートは、アンチドーピング規則が禁止している行為を理解する知的能力を有していない場合がありうるとの理解に基づきます(同頁脚注127)。こうした理解を前提に、アンチドーピング規程は「要保護者」による規則違反に対しては、資格停止期間の短縮を含めた様々な特別規定を設けており、中でも、規則違反の認定に際してアスリートが証明すべき内容についても一定の差異が明示的に設けられている点が注目されます(172頁)。

「要保護者」カテゴリーと証明責任・証明度

この点、本件におけるRUSADAの暫定的資格停止処分の根拠となる規程7.4.1条(およびそれを受けたロシア・アンチドーピング規則)においてはそうした区別が設けられておらず、違反が異物混入(コンタミ)によるものであった可能性がある(is likely)ことをアスリート側が証明した場合に、資格停止処分が取り消される旨一律に規定されています。そこで、DADCは、「要保護者」についてはより低い証明度を適用するのが適当であるとし、通常の証明度である「蓋然性の優劣」ではなく、異物混入があったことの「合理的可能性(reasonable possibility)」が示されれば足りるとの基準を定立したうえで、本件において結論としてそうした可能性が十分示されたことを根拠として(ワリエワ選手の祖父をめぐる話が意味を持つのはこの文脈)、暫定的資格停止処分を取り消しました(仲裁判断27-33項)。

これに対して国際スケート連盟は、「要保護者」についてそうした新たな証明度を定立することはアンチドーピング規則の潜脱を許すものであるとして反発します(89項)。仲裁手続上ではワリエワ選手とともに被申立人の立場に立ったRUSADAも、こうした条文の根拠がない証明責任の扱いに不満の意を表明しているところがあります(102項)。他方、処分取消決定を得たワリエワ選手側がDADCの判断枠組みを擁護するのはもちろんのこと、興味深いことに、申立人側に連なったIOCも、未成年の場合における特別の証拠規則の適用を想定しているように見受けられます(62項)。

■CASパネルの判断

以上のように、ワリエワ選手が「要保護者」であることは主としてドーピング規則違反について妥当する証明責任・証明度をめぐって論じられてきました。これらのを踏まえての懸案のCASパネルの判断ですが、結論としては処分取消決定を維持したものの、DADCとは異なる判断枠組みを示した点が注目されます。なお、CASパネルがRUSADAの処分を覆したかのように報じる向きも見られますが、RUSADAの処分を取り消したのはあくまでDADCであり、このDADC決定を不服とするIOC・WADA・国際スケート連盟の仲裁申立てを退けた(その結果として暫定的資格停止処分の取り消しを維持した)のが、本仲裁判断ですRUSADAの処分を取り消したDADCは、あくまでRUSADAとは別の独立機関です(103項)。

まず、暫定的資格停止処分の根拠となった規程7.4.1条が「要保護者」に関する特別の規定を置いていない点に着目する点ではDADC決定と同様ですが、CASパネルはそれを踏まえ、アンチドーピング規程には「欠缺」があると認識し、不合理な結論を回避するために仲裁廷はこの欠缺を補充しなければならないとの前提に立ちます(200項・なお(国際)法理論の観点からは、そうした法の欠缺補充があくまで「解釈」と性格規定されている点が興味深いですが、この点は別の機会に)。この前提から、CASパネルは、DADCのように証明責任に関する特則を規程7.4.1条に読み込むのではなく、義務的な資格停止処分を規定する7.4.1条に代わって選択的な資格停止処分を定める7.4.2条を適用し、本件事情下においては資格停止処分を課さない選択肢がとられるべきであったと判断します(202項)。証明責任・証明度の問題として論じられてきた「要保護者」概念が、CASパネルの仲裁判断においては処分根拠規定の選択問題に置き換わっているのがわかります。

■代替的な根拠

以上の判断に加え、CASパネルは「代替的な根拠」として、暫定措置に関するスポーツ仲裁の判例を参照することが適当であるとし、その要件(損害の回復不可能性、本案勝訴の見込み、利益衡量)がいずれも充足していると判断します。選手生命の短さを踏まえるとオリンピックのようなイベントに出場できない損害は回復し難いものであること、他方、ドーピング違反が確定すればメダル剝奪という措置がありうることなどが、主要な考慮要素として挙げられています(203項以下)。

その際、CASパネルは、ワリエワ選手のドーピング検査結果の通知に大幅な遅れがあったこと(20日以内が推奨されているところ、44日かかった)、しかも結果の通知がオリンピック期間中になってしまったことで、選手側が十分な防御を準備しうる状況にないことを併せて考慮しています(206項)。WADAによれば、20日以内という期限はあくまで推奨にとどまり、また本件の遅れはパンデミックによる関連ラボの人員不足によるものとのことですが、CASパネルは、アンチドーピング機構が十分機能しないことに由来する損害リスクにアスリートが服すべきではないという表現で、この説明を一蹴します(220項)。このように、「代替的な根拠」としてCASパネルが挙げた諸要素は、ワリエワ選手が「要保護者」であることとはひとまず切り離されているように思われます。いずれにせよ、CASパネルの判断の批評は、公開された仲裁判断の理由付けを踏まえて行う必要があります。

27 January 2022

ヤンゴン地裁、キリン子会社清算申立てを却下


2021年2月に発生した軍のクーデターの後、キリンホールディングスはミャンマーで展開していた合弁事業の解消を表明し、合弁の相手方である国軍系企業がキリン現地子会社の清算を現地裁判所に申し立てていたところ、ヤンゴン西地裁は26日、本清算申立を却下する命令を下しました。親会社であるキリンホールディングスが同日発表しました。

キリンの分が悪い」との事前評からすると、やや意外な展開にも思われます。

申立却下の根拠は詳細には明らかにされていませんが、同発表によれば、申立ての制定法上の根拠の誤りとのことであり、異なる制定法の根拠に基づく再度の清算申立てがありうるとのことです。

キリンの合弁解消をめぐっては当事者間の交渉が難航していることが報じられてきており、国軍系企業側は現地の裁判所で手続きを進める一方、キリン側はシンガポール国際仲裁センターを通じた商事仲裁による合弁の解消を目指しています。

06 November 2021

オランダ最高裁、Yukos仲裁判断取消申立控訴審判決を破棄差戻し

 


オランダ最高裁は5日、Yukos事件仲裁判断の取消申立控訴審判決を破棄し、控訴審に差し戻しました。判決文は、現時点ではオランダ語のみが掲載されていますが、英訳がいずれアップロードされるようです。

2014年に被申立国ロシアに対して超巨額の損害賠償を命じた仲裁判断(Veteran, Yukos Universal, Hulley v. Russia)をめぐっては、その後オランダ裁判所において取消が申し立てられたところ、第一審は取消申立を認容したのに対し、控訴審は原判決を取り消す(よって仲裁判断が「復活」)という経緯を経てきたところで、最高裁は控訴審判決を破棄しており、二転三転してきております。最高裁は事件を控訴審に差し戻したため、事件はいましばらく続きそうな見通しとなっています。

02 July 2021

日本バドミントン協会、スポーツ仲裁自動応諾条項を破棄

 


協会としての意思決定は少し前のようですが、6月30日付で下された仲裁パネル決定の中で言及されたこともあり、報道されているようです。

本件は、申立人(岐阜県に本拠を置くバドミントンチーム)が、被申立人(日本バドミントン協会)が主催する実業団バドミントンリーグへの登録を申請したところ、協会がこれを認めないと決定したため、当該決定の取消を求めてスポーツ仲裁に申し立てた事案です。2021年4月28日付の仲裁判断は申立人の請求を認容し、協会の決定を取り消しを判断していました(JSAA-AP-2020-005号事案)。が、協会はその後、スポーツ仲裁自動応諾条項からの離脱を議決のうえ(5月29日)、日本スポーツ仲裁機構に対してその旨通知し(6月10日)、機構がその受領を確認した(同11日)後に、「6月15日ころ」に、申立人をリーグに登録させない決定を行ったという事実経過です。そこで申立人は再度仲裁を申し立てましたが(6月17日)、上記自動応諾条項からの離脱の効果により、仲裁合意が存在しないと判断され、手続の終了が決定されました(JSAA-AP-2021-001号事案)。

国際法に慣れ親しんだ者としては、不利な仲裁判断が下された側がのちに仲裁管轄合意を撤回あるいは合意の範囲を縮減するということは日常茶飯事であり、珍しくない現象ですが、こと日本スポーツ仲裁業界では異例の事態のようであり、仲裁パネル決定も、自動応諾条項の在り方について長文にわたる「付言」を付しています。

なお、公平性の観点から付記しますと、日本バドミントン協会は、上記仲裁自動応諾条項からの離脱と同時に「不服審査会」を設置し、チーム登録の承認に関する不服申立の仕組みを協会内部に設けたようです。

さらに、先行する仲裁判断が扱った事案は2020年のリーグ登録申請にかかる紛争であり、本件は2021年のリーグ登録申請にかかる紛争である、と本件仲裁パネルが認定している点も踏まえる必要はあります。

23 December 2020

模擬裁判への参加を理由とする仲裁人忌避申立て(を却下した事例)

 


数多く開催され、数多くの国際法研究者・実務家も参加する国際法模擬裁判ですが、係属中の仲裁手続の一方当事者が主催者となっている模擬裁判(フランクフルト模擬投資仲裁)に裁判官としての関与した経験があることを理由とする仲裁人忌避申立てが他方当事者から提起され、見事に却下された例が最近公表されました(153項)。これで安心して模擬裁判の裁判官を引き受けることができると考える方もいるかもしれません。

ちなみに、同決定の主たる争点はどちらかといえば、COVID-19パンデミックを理由としてオンラインでの口頭弁論開催を決定した仲裁廷に対して不服であった被申立国が行った仲裁廷全体に対する忌避申立てにあると思いますので(とはいえこれも却下、145項)、バランスよく読む必要があります。

05 November 2020

三井物産、再生可能エネルギー投資に関してスペインを相手取り投資仲裁申立

 

10月30日付でICSID事務局ウェブサイトに記載されております(ICSID Case No. ARB/20/47、管轄権の基礎はエネルギー憲章条約)。詳細の記載はありませんが、太陽光発電に関する補助金制度の変更に起因する一連の投資紛争の1つと推測されます。日系企業による対スペイン申立としては、公表されている限りではこれが4件目となります。

24 July 2020

カタール航空、湾岸周辺4か国を相手取り国際投資仲裁申立て



2017年6月5日、湾岸4か国(バーレーン、エジプト、アラブ首長国連邦、サウジアラビア)がカタールと外交関係を断絶して以降、同4か国はカタール登録の旅客機の自国における発着及び上空飛行を制限してきました。本年7月22日、これが違法な空域封鎖であり、投資財産の価値を毀損するとして、カタール航空がこれら4か国を相手取り国際投資仲裁申立てを行うとプレスリリースにて発表しました。"the OIC Investment Agreement; the Arab Investment Agreement; and the bilateral investment treaty between the State of Qatar and Egypt"に基づく申立てと説明されています。

これら4か国はこれまで、本空域制限措置について、先行するカタールの国際違法行為(テロリズム防止義務違反等)に対する合法な国際法上の対抗措置であると説明してきましたため、本件仲裁手続が本案まで進む場合には、投資条約違反の主張に対して対抗措置による違法性阻却の抗弁を提起することが予想されます。そしてこれがなされると、外国投資家の投資財産を制限する措置を、当該投資家の本国が行ったとされる先行違法行為に対する一般国際法上の対抗措置として正当化できるか否かという、ちょっと懐かしい投資法上の論点が再燃する可能性があります。一連のNAFTA仲裁事例(ADM v. Mexico, Corn Products v. Mexico, Cargill v. Mexico)を再読しておくといいかもしれません。

本空域制限措置をめぐっては、国際民間航空条約等に違反するとして、カタールがやはり周辺4か国を相手取りICAO理事会に紛争を持ち込んでおり、同理事会はこれまでに自らの管轄権を肯定する決定を行っております。国際司法裁判所が最近下した2つの判決(これこれ)は、このICAO理事会の管轄権についての決定を追認したのみです。

04 July 2020

Enrica Lexie事件(イタリア対インド)仲裁判断の抜粋が公開


7月2日付で仲裁判断の抜粋(といいますか、両当事国の最終申立と仲裁判断の主文のみですが)が公開されました。インド国内裁判所で刑事訴追の対象となっていた2人のイタリア人海兵隊員の刑事裁判権からの免除が結論され、インドに対して管轄権行使の停止に向けた措置を取るよう命じています(主文パラ2-3)。仲裁判断全体の公開が待ち望まれます。

8月14日追記:仲裁判断全体が公開されました。ちなみに、全体がPCAのウェブサイトに仲裁判断が公開される前からすでにいくつかの評釈が出ている(そして某有料国際仲裁データベースでは入手可能)という状況でしたが、インドが自国最高裁に仲裁判断を提出したために一般に入手可能な時期があったようです

03 July 2020

南シナ海仲裁解説(3) 欠席手続と証明責任分配



(注記:本ポストの初出は2016年8月4日で、南シナ海仲裁判断の数ある論点のうちマイナーな点について書き連ねたものを旧ブログ(閉鎖済み)からこちらに移行したものです)

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周知の通り、中国代表団は仲裁手続に姿を見せず、欠席戦術をとりました。手続論としては、一方当事国の欠席は仲裁手続の続行を妨げることはなく(付属書VII第9条)、そうした欠席は特段「違法」というわけでもなく、紛争当事国が自らの利益に照らしてとりうるオプションの一つとしてむしろ想定の範囲内にあります。

1180. [...] China has been free to represent itself in these proceedings in the manner it considered most appropriate, including by refraining from any formal appearance, as it has in fact done. The decision of how best to represent China’s position is a matter for China, not the Tribunal. [...]

もっとも、国際司法裁判所の場合と同様、UNCLOS仲裁廷の場合にも、一方当事国が欠席の場合には、仲裁廷は「請求が事実及び法において十分な根拠を有すること'the claim is well founded in fact and law'」が求められます(付属書VII第9条)。こうした規定の存在から、従来、国際裁判において一方当事国が欠席した場合には、証明責任の分配規則が何らかの形で「事実上」あるいは「実際上」影響を受けるといった見方がなされることもありました。

しかし本仲裁廷は、(おそらく初めて)少なくとも原則論としては、欠席が通常の証明責任分配・証明度に影響を与えないことを明言します。

131. With respect to the duty to satisfy itself that the Philippines’ claims are well founded in fact and law, the Tribunal notes that Article 9 of Annex VII does not operate to change the burden of proof or to raise or lower the standard of proof normally expected of a party to make out its claims or defences. [...]

もっとも実際には、仲裁判断の中で中国側に証明責任を分配する形で処理した箇所は管見の限り見当たりません。もちろんこれは、フィリピンが中国の活動の違法性を問うという本件紛争の構図に由来するものであり、それ自体としては不自然ではありません(これまでの国際裁判における証明責任の分配については拙著158-181頁、248-289頁参照)。ですので、「欠席国が証明責任を負う」という命題と「仲裁廷・裁判所が(原告の)請求が事実及び法において十分な根拠を有することを確認する」との命題が実際上どのように両立するのかは、将来の例に委ねられたかたちになります。

この点、中国による埋立・人工島敷設活動の違法性を問う文脈で(請求第11及び12(B))、仲裁廷が中国に対して環境影響評価の報告書を提出するよう求めたにもかかわらず、これが提出されなかったという事実が、UNCLOS第206条違反を結論付ける文脈で言及されておりますが、これは必ずしも仲裁手続上中国側に証明責任が分配されていたことを前提とする判断ではないものと思われます。206条は、環境影響評価を実施するのみならず、その報告書を「公表」する義務を課しているため、仲裁手続における不提出の事実は、環境影響評価が公表されていないという心証を補強する位置づけが与えられているにとどまるものと考えられます。

991. The Tribunal cannot make a definitive finding that China has prepared an environmental impact assessment, but nor can it definitely find that it has failed to do so in light of the repeated assertions by Chinese officials and scientists that China has undertaken thorough studies. Such a finding, however, is not necessary in order to find a breach of Article 206. To fulfil the obligations of Article 206, a State must not only prepare an EIA but also must communicate it. The Tribunal directly asked China for a copy of any EIA it had prepared; China did not provide one. While acknowledging that China is not participating in the arbitration, China has nevertheless found occasions and means to communicate statements by its own officials, or by others writing in line with China’s interests. Therefore had it wished to draw attention to the existence and content of an EIA, the Tribunal has no doubt it could have done so. [...] Accordingly, the Tribunal finds that China has not fulfilled its duties under Article 206 of the Convention.

南シナ海仲裁解説(2) 伝統的漁業権の証明方法



(注記:本ポストの初出は2016年8月2日で、南シナ海仲裁判断の数ある論点のうちマイナーな点について書き連ねたものを旧ブログ(閉鎖済み)からこちらに移行したものです)

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■国際法上の私権としての伝統的漁業権

仲裁廷が違法と判断した中国の活動の1つに、フィリピン漁民が伝統的漁業に従事するのを阻害した点があります(主文第11)。この主文だけを読むと、中国の行為が何に違反したのかは一見して明らかではありませんが、判断理由を遡ると、フィリピン漁民を含めた個人は伝統的漁業に従事することについての「慣習国際法上の既得権」を有しており、それを阻害する中国の行為が、伝統的漁業権を尊重する国際法上の要請に適合しない、という推論であることが分かります。

812. In the Tribunal’s view, it is not necessary to explore the limits on the protection due in customary international law to the acquired rights of individuals and communities engaged in traditional fishing. The Tribunal is satisfied that the complete prevention by China of fishing by Filipinos at Scarborough Shoal over significant periods of time after May 2012 is not compatible with the respect due under international law to the traditional fishing rights of Filipino fishermen. [...]

■伝統的漁業権の証明方法

この伝統的漁業に従事する「既得権」あるいは「慣習に基づく権利'customary rights'」が、国際法によって承認された「私権'private rights'」であるという性格規定はそれ自体注目に値するかと思いますが(798・799・806項)、ここではそうした「権利」がどのようにして認定されたかに注目してみます。仲裁廷はまず、係争海域であるScarborough Shoalが伝統的な漁場であったことを認定しつつ、その歴史的記録は稀少であり、証拠資料が少ないことを認めます。

805. Based on the record before it, the Tribunal is of the view that Scarborough Shoal has been a traditional fishing ground for fishermen of many nationalities, including the Philippines, China (including from Taiwan), and Viet Nam. The stories of most of those who have fished at Scarborough Shoal in generations past have not been the subject of written records, and the Tribunal considers that traditional fishing rights constitute an area where matters of evidence should be approached with sensitivity. [...]

事案の性質上、多くの証拠資料が期待しえない場合に国際裁判においてどのような扱いがなされるべきかはそれ自体大きな問題ですが(詳細は拙著172-181頁参照)、本仲裁廷の場合、主張立証の結果だけでなく、両当事国が「誠実に」主張立証を行ったという仲裁手続上の態度を加味した上で懸案の「既得権」を肯定したと読める点が注目に値します。

805. [...] That certain livelihoods have not been considered of interest to official record keepers or to the writers of history does not make them less important to those who practise them. With respect to Scarborough Shoal, the Tribunal accepts that the claims of both the Philippines and China to have traditionally fished at the shoal are accurate and advanced in good faith.

口頭弁論終結時点での主張立証活動の成否という結果だけでなく、手続の最中における立証活動の行為態様を勘案したとも理解しうるこうした判断は、国際裁判でも先例が無いわけではないですが(詳細は拙著177-179頁参照)、かなり珍しい部類に属するものと考えられます。要するに、「誠実に」最善の立証活動を尽くしたことを認容根拠の1つとする推論であり、したがってその射程が気になりますが、'written records'の対象とならない事項という、かなりの限定がかかっておりますので、単に証拠が偏在しているとか証明が困難な場合に援用していくのは難しいかもしれません。

南シナ海仲裁解説(1) 海図の証拠価値



(注記:本ポストの初出は2016年8月1日で、南シナ海仲裁判断の数ある論点のうちマイナーな点について書き連ねたものを旧ブログ(閉鎖済み)からこちらに移行したものです)

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■海図の証拠価値


南シナ海の海洋地勢について、高潮時に水没してしまう低潮高地か、それとも水没しない「高潮地勢'high-tide features'」かを判断するに際して(この用語法は、仲裁判断のpara.280参照)、仲裁廷は、古い海図資料を重視する立場を一般論として示します。というのは、島も低潮高地も「自然に形成された陸地」であることが要件であるため(UNCLOS13条・121条1項)、自然状態を検討するためには、人工島建設や埋め立て工事が進められてしまった現在の姿ではなく、そうした中国の活動が行われる以前の状態を知る必要があるからであります。


327. Given the impossibility of direct, contemporary observation and the limitations on what can be achieved with remote sensing, the Tribunal considers that more convincing evidence concerning the status of features in the South China Sea is to be found in nautical charts, records of surveys, and sailing directions. Each of these sources, the Tribunal notes, represents a record of direct observation of the features at a past point in time. [...]


つまり、過去の海図が海洋地勢の性質決定に際して証拠価値を持つのは、それが過去の一定時点における作成者の直接的な知覚を表現するものであるからであり、ここから、海図の発行それ自体よりも、海図作成に至る調査活動がいつどのように行われたかを重視するアプローチが導かれるわけです。これに基づいて、具体的には、英国海軍および旧日本帝国軍が1930年代までに行った調査を重視するとの立場を示します(para. 329)。


■メディア報道の類推?


他方、フィリピン側弁護団はこれらに限らず、上記以外の国(フィリピン、中国、マレーシア、ヴェトナム・・・)が作成したとされる多くの海図を提出していました(Merits Hearing Day 2 Transcript p. 35)。しかし、仲裁廷はこれらを基本的には退けます。その理由は、それらの海図が、結局のところ英国および日本の海図のコピーに過ぎないとの判断によります。


330. The majority of the nautical charts of the South China Sea issued by different States, however, are to a greater or lesser extent copies of one another. Often, information is incorporated or outright copied from other, existing charts without express attribution. Where a chain of sources can be established, even very recent charts will often trace the majority of their data to British or Japanese surveys from the 1860s or 1930s. A more recently issued chart may, in fact, include little or no new information regarding a particular feature. Multiple charts depicting a feature in the same way do not, therefore, necessarily provide independent confirmation that this depiction accords with reality.


仲裁判断は特段先例を引用しておりませんが、この説示が念頭に置いているのは明らかに、無数のメディア報道は時として単一の情報源に帰着することがあり、その場合には、その元々の情報源しか証拠価値は持ちえないという、下記に掲げるICJニカラグア事件判決(1986年)の一節であります。


63. [...] The Court has however to show particular caution in this area. Widespread reports of a fact may prove on closer examination to derive from a single source, and such reports. however numerous, will in such case have no greater value as evidence than the original source. It is with this important reservation that the newspaper reports supplied to the Court should be examined in order to assess the facts of the case, and in particular to ascertain whether such facts were matters of public knowledge.

02 July 2020

日中二国間投資協定に基づく最初のICSID仲裁申立て





6月29日付で、日中投資協定(1988年)に基づくICSID仲裁申立てが1件事務局に登録されました(ICSID Case No. ARB/20/22)。同協定に基づくICSID仲裁申立てはおそらく初かと思われます。不動産建設関連の紛争であること以外は現時点では判明していません。もっとも、仲裁管轄の基礎を提供する日中投資協定第11条2項の紛争処理条項の(古いタイプの)限定的な規定振りからすれば、これが合意付託でないとするならば、本仲裁で扱われる事項の範囲を推測できるかもしれません。


18 June 2020

紹介: Mass Claims (Jus Mundi)

国際投資仲裁データベースとして最近注目を集めているJus Mundiのコンテンツの1つに、Wiki Notesという、投資法関連のキーワードについて解説するものがあり、"Mass Claims"のエントリーで短い解説記事を書きましたので、ご笑覧ください。対アルゼンチン事例に加えて、最近の対キプロス事例まで踏まえております。投資仲裁における集団請求については、こちらの論説もあわせてどうぞ。