29 October 2021

EU司法裁判所、ポーランドに対し1日当たり100万ユーロの制裁金支払いを命じる暫定措置を発出


EU司法裁判所(副所長)は10月27日、ポーランド政府に対して1日当たり100万ユーロの制裁金支払いを命じる暫定措置命令を発出しました。 広く報道されている通り、ポーランド最高裁判所に設置された裁判官懲戒制度(腐敗防止目的と説明)が司法権の独立を害する(EU条約第19条1項に違反する)との欧州委員会の申立てを受けて、EU司法裁判所(副所長)は7月、懲戒制度を基礎づけるポーランド法令の停止を命じていたところ、その履行措置が不十分であるとの判断が理由として挙げられています。

EU法上、EUの予算のコンディショナリティーとして法の支配(司法の独立)の遵守が要求されており(規則2020/2092の第3条)、いわゆるコロナ復興基金(Next Generation EU)と法の支配の遵守とを紐つけて補助金の分配の停止を求める主張もあります。こちらの動きも別途注視する必要があります。

なお、たまたまですが、本命令の前日である26日付で、Achmea判決の射程をアドホック仲裁合意に拡張する(投資仲裁制度を定めるIntra-EU BITsがEU法に反するのと同様、EU加盟国と他のEU加盟国の投資家の間でのアドホックな仲裁合意もEU法に反するとする)判決(Poland v. PL Holdings)が下され、こちらも話題となっていますが、その中で、本件投資家(ルクセンブルク法人)は条約上の投資仲裁制度ではなくポーランド司法制度によって保護されるとした次のくだりが、以上の文脈と併せると興味深いところがあります(強調筆者)。

68 Secondly, the individual rights which PL Holdings derives from EU law must be protected within the framework of the judicial system of the Member States, namely, in the present case, the Polish judicial system. Consequently, even if it were established that there is a lacuna in the protection of those rights, as is alleged by PL Holdings, that lacuna would have to be filled within that system, if necessary with the cooperation of the Court in the context of its powers; however, such a lacuna cannot justify allowing a failure to comply with the provisions and fundamental principles referred to in paragraph 65 above.

10月30日追記:注視する間もなく新展開があり、上記コンディショナリティー規則の不遵守を理由として、欧州議会が欧州委員会を相手取り、EU司法裁判所に提訴したとの発表がありました。

13 October 2021

子どもの権利条約委員会、気候変動にかかる個人通報を却下


気候変動に関して適切な防止・予防措置を取らないことが子どもの権利条約に違反すると主張されていた個人通報事例(被申立国はアルゼンチンフランスドイツ等)で、子どもの権利条約委員会は通報の受理不能却下を決定しました。決定が一般に公表されたのは10月12日でしたが、採択日は9月22日となっています。

却下の理由は国内救済の未完了であり、その推論(救済を得られる見込みについて単に疑義を持つだけでは救済完了を免除しない:10.18項)も穏当なものですが、通報者の1人にGreta Thunberg氏が含まれていたため、多くのメディアが(ややセンセーショナルに)報じております。もっとも、通報者の氏名は国籍国のアルファベット名順に記載され、筆頭に記載されるのは別の個人(アルゼンチンの環境活動家のようです)の氏名となり、"Chiara Sacchi et al. v. Argentina [France/Germany/...]"として引用するのが正式になるかと思います。もっとも、敢えて"Greta Thunberg et al. v. Argentina"等として引用したからといって「誤り」ということにはならないかもしれませんが。