30 October 2023

欧州連合を相手取った投資仲裁の申立(おそらく2件目)

 

10月24付でICSID事務局に登録されました。エネルギー憲章条約に基づく仲裁申立です。欧州連合はエネルギー憲章条約の当事者ではありますが、ICSID条約の当事者ではないため、ICSIDの追加的制度に基づく手続が選択されています(ECT第26条4項(a)(ii))。

欧州連合を相手取った投資仲裁申立としてははおそらく2例目となります。1件目はロシアのウクライナ侵攻後有名になったノルドストリーム2による申立で、こちらはUNCITRAL仲裁規則に基づき常設仲裁裁判所で審理が進められていましたところ、今般の情勢を踏まえて手続が停止していました。その後、欧州連合が仲裁手続の打ち切りを申し立てていましたところ、仲裁廷は最近これを却下しました。制裁によって仲裁手続き自体が妨げられているわけではなく、またノルドストリーム2の操業に対する地政学的影響は実体判断に属する事項との判断によります

19 May 2023

ヨーロッパ評議会、ロシアのウクライナ侵略により生じた損害を登録する機関を設立

 


5月12日付閣僚委員会決議(CM/RES(2023)3)で設立が決定されました。ウクライナにおける・対するロシアの国際違法行為により生じた自然人・法人・国家としてのウクライナの損害に関する証拠資料の登録を任務とする機関です(1.1条)。請求委員会方式の可能性を含め、将来的な賠償メカニズム設立の第1段階としての位置づけが与えられています(2.1-5条)。機関はオランダ・ハーグに設置され(オランダ法上の法人)、ウクライナにサテライトオフィスを構えます(3.1条、3.4条)。機関の理事会(Board)は個人資格からなる7名の個人で構成され、最低4半期ごとに会合を行い、3年任期で業務を遂行します(6条)。業務を遂行する委員には国際法・戦争賠償のみならず、会計や損失評価といった様々な専門性(そしてバックグラウンド)が求められています(6.1条)。どのような人材が任命されるか注目されます。

機関への参加の方式は、拠出金分担があり総会での投票権を持つ参加国(Participant)と、拠出金の負担は任意であり投票権は持たない準加盟国(Associate Member)の二通りがあります。ヨーロッパ評議会加盟国に加えてオブザーバー国の参加も可能であり、日本(オブザーバー国)は「準加盟国」としての参加を表明したようです。

「損害登録機関(Register of Damage: RoD)」と国際法ではあまり聞きなれない言葉ですが、先例としては、占領パレスチナ地域における壁建設から生じた損害を登録する機関が国連総会の下部機関として2007年に設立されており(A/RES/ES-10/17)、今日まで活動しています(現在の構成員はVladimir Goryayev (Russian Federation), Mariana Salazar Albornoz (Mexico), Jeremy K. Sharpe (United States))。

04 April 2023

米連邦地裁、エネルギー憲章条約に基づく対スペイン仲裁判断の承認を拒絶

 

Blasket Renewable Investments v. Spainという事件の3月29日付命令になります(事件番号21-cv-03249-RJLでPACERにて検索ください)。原告は、The PV Investors v. Spain (PCA Case No. 2012-14)の申立人企業(オランダ法人)の一部から仲裁判断を購入した法人(デラウェア州法人)です(3月6日付Memorandum参照)。

EU域内の投資条約の効力およびそれら条約(ECTのEU加盟国間関係も含む)に基づき設立される仲裁廷の地位については、EU法の優位性を根拠に投資仲裁廷の管轄を否定する立場(Achema判決以降の一連の欧州司法裁判所判決)と、ECTの自律性を根拠に仲裁管轄を肯定する立場(殆どの投資仲裁判断)とが対立してきましたところ、仲裁判断の承認執行申立を受けた米国の連邦裁判所が前者に親和的な立場を示したのは本件が(おそらく)最初と思われます。理由付けの要点は下記部分(p. 14)になります。

The most straightforward reading of [Art 26(6) ECT] is that any award issued by an arbitral tribunal established under the authority of Article 26 must be consistent with both the ECT itself and any other "rules and principles of international law" that apply to a dispute between the parties. As such, when resolving a dispute between an EU Member State and another EU national, the tribunal must apply "rules and principles" derived from the EU treaties--sources of international law--as those rules are "applicable" to the parties before it. Id. Because the agreement to arbitrate between Spain and the Companies was invalid under EU law, see Komstroy para. 66, there was no valid agreement to arbitrate as defined by the ECT itself. 6 As such, the tribunal lacked authority to decide the dispute, and any award was, by definition, ultra vires.

要するに、EU法の適用をECT自身が要求している、というECT解釈になります。大多数の投資仲裁判断と一線を画するばかりか、仲裁廷がEU加盟国法をlex arbitriとする限りにおいて当該加盟国法に取り込まれたEU法を適用するという論理構成を採用した最近の例(Green Power v Spain, 9REN v Spain Annulment)からみてもさらに踏み込んだ立場になります。事実、本件仲裁判断を下した仲裁廷はスイス法をlex arbitriとしたものなので(パラ516)、lex arbitriを経由する論理構成は採用できなかったことになります。

米国における対スペイン仲裁判断の承認執行事例だけで比較してみても、先月同じ連邦裁判所(コロンビア特別区)で下された2つの判断(9REN v. Spain, NextEra Energy v. Spain)とも相容れないように見受けられます。

20 January 2023

アゼルバイジャン、環境条約に基づきアルメニアを相手取り国家間仲裁を申し立て

 


18日付でアゼルバイジャン外務省が発表しました。援用されたのは、「ヨーロッパの野生生物と自然生息地の保全に関するベルヌ条約」であり、「国際的に承認されたアゼルバイジャン領域に対する30年近い不法占領」の間に生じた環境損害についてアルメニアの責任を問うとしています。ナゴルノ・カラバフ紛争に起因する両国間の国際訴訟戦線が今一歩拡大したかたちとなります。

ベルヌ条約の第18条2項が紛争処理手続を規定しており、交渉等により紛争が処理されなかったことを条件とする仲裁付託を次のような文言で認めています。欧州評議会がdepositaryであることあってか、仲裁人選任のappointing authorityとしては欧州人権裁判所の所長が指定されています。

Any dispute between Contracting Parties concerning the interpretation or application of this Convention which has not been settled on the basis of the provisions of the preceding paragraph or by negotiation between the parties concerned shall, unless the said parties agree otherwise, be submitted, at the request of one of them, to arbitration. Each party shall designate an arbitrator and the two arbitrators shall designate a third arbitrator. Subject to the provisions of paragraph 3 of this article, if one of the parties has not designated its arbitrator within the three months following the request for arbitration, he shall be designated at the request of the other party by the President of the European Court of Human Rights within a further three months' period. The same procedure shall be observed if the arbitrators cannot agree on the choice of the third arbitrator within the three months following the designation of the two first arbitrators. 

なお、アゼルバイジャンとアルメニアはいずれも本条約につき留保を付していないようです。