14 May 2026

米国によるイラン核施設への攻撃をめぐり、イラン=米国請求裁判所への提訴の報道

 

昨年6月の米国によるイラン核施設に対する武力行使をめぐり、イランが米国を相手取りイラン=米国請求裁判所に提訴したとの報道がなされました。政府の公式声明や裁判所ウェブサイトへの掲載はまだ見当たりませんが、これまでに複数のイラン系メディアが報道しているところです(英字メディアにつき、これこれこれ)。

報道によれば、核施設攻撃に加えて、米国によるイランに対する経済制裁賦課や武力の威嚇等についても問うものとされています。報道の限りでは、本年2月に始まるより広範囲にわたる対イラン攻撃については提訴案件に必ずしも含まれていないようです。

2025年6月の一連の対イラン核施設攻撃を当初からリードしていたのはむしろイスラエルでしたが、イランが提訴した相手はこれまでのところ米国のみです。対イスラエルではめぼしい管轄権の基礎が見当たらないためと考えられますが、では、今般の対米国訴訟はめぼしい管轄権の基礎に基づくとみることができるでしょうか。一般メディアではこの点を掘り下げることは期待し難いため、本ポストではこの点を少し整理してみます(提訴報道のはるか以前、停戦直後(!)にこの点を論じたブログがありますので、併せて参照)。

イラン=米国請求裁判所は周知のとおり、イラン革命およびそれに引き続く米国大使館員人質事件等の事後処理のために1981年に設立された国際法廷です。同裁判所は、損害を被った私人による請求("Private Claims")に加えて、国家間請求も受理することができ、物品売買に係る契約に基づく請求("B Claims")と、裁判所の設立文書(1981年1月19日付アルジェ宣言)の「解釈または履行に関する紛争(any dispute as to the interpretation or performance)」("A Claims")について、事項的管轄権を有します。

非常に興味深いのが時間的管轄に関する取り決めであり、私人請求("Private Claims")及び国家間契約請求("B Claims")については裁判所の設立から1年以内に提訴しなければならいとの規定が、アルジェ宣言の「解釈または履行に関する紛争」("A Claims")については適用されないと明示されている点です請求処理宣言第III条4項)。設立から40年以上を経た今なお裁判所は稼働中であるため、設立文書の文言を一瞥する限り、上述の"A Claims"として定式化した国家間紛争であれば、裁判所に今なお提訴し審理できるはず、ということになります。

では、核施設に対する攻撃はアルジェ宣言の「解釈または履行に関する紛争」とみることができるでしょうか。報道によれば、イランが援用しているのは同宣言第1項であり、イラン内政に対する不干渉を米国が約束した内容の取り決めです。

The United States pledges that it is and from now on will be the policy of the United States not to intervene, directly or indirectly, politically or militarily, in Iran’s internal affairs.

核開発施設に対する攻撃を、イラン国防という内政にかかる「直接的で」「軍事的」な干渉行為であると性格づけることはそこまで難しくはないようにも思われます。本年の攻撃と併せてみることで、イランの体制変更を狙ったものであり、その布石と位置付けることができれば「内政干渉」という性格は一層強調されるかもしれません。他方で、同項の表現("pledges", "will be  the policy of")は、国際義務の表現としてはあまり見かけない語彙選択であることから、その含意に関して解釈の余地はあると考えられます(が、これは本版の問題であると考える余地もあります)。以上を踏まえて、対イラン核施設攻撃を審理する裁判所の管轄権をめぼしいものとみることができるか考える必要があります。

国際司法裁判所に提訴できないかが気になるかもしれませんが、裁判所の管轄権をこれまでに何度も提供してきた二国間友好関係条約については、米国が2018年に終了を通告しています。