29 July 2020

COVID-19と国際法(8) 永住者・定住者の再入国制限措置と自由権規約上の「自国」に戻る権利



COVID-19感染拡大防止を理由として、日本政府は「当分の間」(そして7月29日現在)、一定の国・地域に滞在歴がある外国人等について、「特段の事情」がない限り、上陸を拒否しています。上陸拒否対象国・地域は4月以降漸次拡大されているため、措置の規定振りはかなり複雑となってきておりますが、要するに、上陸拒否の対象国・地域として追加された後に上陸拒否対象国に滞在した場合には、出入国管理及び難民認定法第5条1項14号にいう「法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当し、日本への再入国を拒否するというスキームと理解されます。本措置の結果、日本に生活基盤がある外国人であっても、上陸拒否対象国・地域として追加されたのちに日本を出国し当該国・地域へと赴いた場合には、日本への再入国ができなくなっていることが問題視されているようです。

ここで国際法の観点から浮上するのが、「No one shall be arbitrarily deprived of the right to enter his own country」と規定する自由権規約第12条4項です。同項にいう「自国 (his own country)」は「国籍国」を意味するとするのが日本政府の解釈であり、したがって日本国籍を持たない外国人はそもそも12条4項の対象とはならないとの立場に立っています(これ32項参照)。これに対して自由権規約委員会は「自国 (his own country)」は「国籍国」よりも広い概念であり、「長期居住者 (long-term residents)」も含みうる、との立場に立っています(一般的意見第27)。「自国」は「国籍国」と同義ではない旨、1998年の日本報告書審査総括所見でも述べています(18項)。(坂元茂樹「『自国』に戻る権利」藤田久一他編『人権法と人道法の新世紀』(東信堂、2001年)149頁以下も併せて参照)

もっとも、仮に自由権規約委員会の解釈を前提としても、今般のCOVID-19関連の再入局制限措置が12条4項と整合的か否かを問うためには、もう1つ法律論に取り組む必要があります。12条4項は自国に戻る権利を「恣意的に (arbitrarily)」奪われないと規定していることから、恣意的でないと評価できれば権利制限を正当化しうる余地が残るためです。このあたりは、上陸拒否対象国・地域が追加されるたびに明確なアナウンスがあること(ただ、やや猶予期間が短い感はあります)、そして(おそらくは上陸拒否の対象国・地域として追加された後に日本を出国した場合であっても)特に人道上配慮すべき事情があるとき」には再入国を許可する余地を残していること、などを踏まえた個別具体的な判断次第ということになります(法務省が挙げる具体例のリスト(6月12日現在)はこちら)。同時に、入国が許可される者に課すのと同様の検疫措置(PCR検査及び14日間の「自主」隔離)ではなぜ足りないのかも問う必要があるかと思われます。

8月4日追記:上記「特に人道上配慮すべき事情があるとき」の具体例一覧が7月31日付で更新されています。