従来の事例との最大の違いは、一方当事国(ウガンダ)が裁判所の鑑定人嘱託に強く異議を申し立てていたにもかかわらず、裁判所が選任に至った点に見出されます(Judge Sebutinde個別意見がこの点を物語ります)。直近の例であるコスタリカ対ニカラグアの事件では、被告ニカラグアは裁判所の鑑定人嘱託提案に反対していませんでした。
もっとも、鑑定人のterms of referenceを見ると、すでに裁判所に提出されている証拠資料及び公刊資料に基づいて("Based on the evidence available in the case file and documents publicly available")各種賠償算定の基礎を提供するとあるので(16項)、鑑定人自身による独自の現地調査や証拠収集は求められていないと理解できるかもしれません。そうであれば、紛争当事国の協力の見込みが無くとも、鑑定人としては求められる任務を最低限遂行することは可能ではあるかと思います。鑑定人嘱託と紛争当事国の協力の関係性については、拙著(196‐201頁)をご覧ください。