アルジェリアにより自国の偵察用ドローンが撃墜されたと主張するマリによる国際司法裁判所への提訴の動きがかねてから報じられてきましたところ、裁判所書記局は19日付プレスリリースでその旨公表しました。ところが書記局は、当初のプレスリリース公表の数時間後に、タイトルを修正した上で訂正版を発出しています。一見する限り、内容的な相違は大きくなさそうであるにもかかわらず、プレスリリースのタイトルを訂正する必要がなぜあったのかが気になる人もいるかと思いますので、ありうる説明を少し模索してみたいと思います。なお、改訂版への差替え後は、当初のプレスリリースを裁判所ウェブサイトからは閲覧できませんが、当初の版をスクショしている方がいらっしゃるので、保存していない方はそちらをご覧ください。
現在閲覧可能な改訂版のタイトルは、"Mali files an application with the Court concerning a dispute with Algeria"であるのに対して、当初の版は"Mali institutes proceedings against Algeria"となっていましたので、原告提訴を表現する動詞が修正されたことが分かります。この点、請求訴状の提出による一方的提訴の場合には、後者の表現を用いるのがむしろ通例でした(最近の例では、リトアニア提訴事件、フランス提訴事件、スーダン提訴事件)。したがって、いったんはそれに倣ったにもかかわらず、今回書記局が異なる表現に変更した上で訂正版を発出した理由が何かが気になるわけですが、ありうる1つの説明は、マリの請求訴状が援用する裁判管轄権の基礎が応訴管轄のみであり、規則38条5項に基づき(アルジェリアが裁判所の管轄権に同意するまで)総件名簿に記載しない運用であることの反映ということが挙げられます。事実、9か国を相手取ったマーシャル諸島提訴事件の請求訴状は、うち6か国にとの関係では応訴管轄のみが裁判管轄権の基礎であったところ、書記局のプレスリリースは今回と同様の表現を用いていましたので、当該先例を踏まえた修正とみることができます。
そうだとすれば、書記局は、総件名簿への記載に至るか否かで原告による訴状提出を記述する動詞を使い分けており、「file」にはそうした予断を持たない中立的な意味で用いたのだと整理できそうです。が、なかなかそうはいかず、同日に公表されたロシアによる豪州・オランダを相手取った提訴事件のプレスリリースは、管轄権基礎が明示されているにもかかわらず(シカゴ条約84条)、マリ提訴事件の運用と平仄を併せるがの如く「file」の動詞で表現されています。にもかかわらず、プレスリリース本文では「institute」の動詞が用いられ、かつこちらは総件名簿への記載に至っているようです。
書記局プレスリリースの表現に厳密な一貫性を求めるべきではないのか、それとも他の説明が可能なのか、もう少し模索してみたいところです。